Vフォー・ヴェンデッタ (映画の中のアドラー心理学)

金曜日は、「映画の中のアドラー心理学
今回は、映画「Vフォー・ヴェンデッタ
自分と向き合うシーンが満載の作品です。

Vフォー・ヴェンデッタ [Blu-ray]/ワーナー・ホーム・ビデオ
¥4,980
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こんな作品

アラン・ムーアデヴィッド・ロイドによって80年代に発表されたコミックをベースに、「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟が脚本化したサスペンス・アクション。独裁国家となったイギリスを舞台に、反ファシズムを掲げテロ行為を繰り返す謎の男“V”と、その戦いに巻き込まれていく一人の女性の葛藤と成長を描く。9.11同時多発テロ事件以降のアメリカを中心とした政治体制の方向性に対する強い懸念を色濃く反映したものとなっている。主演は「マトリックス」シリーズのヒューゴ・ウィーヴィングとスキンヘッドでの熱演が話題を呼んだナタリー・ポートマン。監督は、「マトリックス」シリーズなどで第一助監督を務め本作が監督デビューとなるジェームズ・マクティーグ。 

近未来のイギリス。そこは独裁者アダム・サトラー議長が支配するファシズム国家となっていた。テレビ局で働くイヴィーはある日、外出禁止時間に表を歩いていたところを運悪く秘密警察に見つかってしまう。そんな絶体絶命の危機を、彼女は“V”と名乗る謎の仮面男に救われる。しかし男は、1605年に国王の圧政に反発し国家転覆を図り失敗に終わったガイ・フォークスにならって、たった一人でサトラー政府に反旗を翻す狡猾非情なテロリストだった。次第にVのテロ活動に深く巻き込まれていくイヴィーは、やがてVとサトラー政府を巡る恐るべき因縁を知ると共に自分自身の内なる真実に目覚めてゆく…。

映画 Vフォー・ヴェンデッタ - allcinema
アラン・ムーアデヴィッド・ロイドによって80年代に発表されたコミックをベースに、「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟が脚本化したサスペンス・アクション。独裁国家となったイギリスを舞台に、反 ...

権力争いから復讐へ

この作品は主人公Vの復讐劇です。私怨による復讐だけに終始しない点が、この作品を好きな理由です。怒りの感情を使った権力争いと復讐については、こちらで少しだけ触れました。

嫌われる勇気(19/57) 権力争いから復讐へ | 人活のすすめ

「ゆるし」による浄化は、この作品では描かれません。復讐を貫徹し、「象徴」を破壊することで、人々に、自分と向き合い、変わることを伝えます。

「ゆるし」について、こんな動画が世界中で大きな反響を得ています。
もし、あなたが母親だったら?犯人をゆるせますか?
また、あなたが罪を犯したとしたら、どう感じますか?

息子を殺害された母。彼女が犯人に下した驚きの制裁とは?

行動に問題があるとしても、その背後にある動機や目的は必ずや「善」である。

アドラーのことばです。復讐、テロ。行動には問題がありますが、主人公の動機や目的は彼にとって「善」。そして、そのイデオロギーは人々の共感を生み、人々の心を変化させていきます。

判断に迷った時は、より大きな集団の利益を優先することだ。自分より仲間たち。仲間たちよりも社会全体。そうすれば判断を間違うことはないだろう。

これもアドラーのことば。復讐を続けるなか、主人公は愛を思い出し、大いに悩みます。続けるべきか、止めるべきか。彼は集団の利益のため行動を続けます。

アドラーのことば

話を「自分と向き合うこと」に戻しましょう。アドラーのことばと共に「自分と向き合う」シーンを紹介します。(太字は全てアドラーのことばです)

できない自分を責めている限り、永遠に幸せにはなれないだろう。今の自分を認める勇気を持つ者だけが、本当に強い人間になれるのだ。

ナタリー・ポートマン演じるヒロインは、過去に起きた出来事で勇気を挫かれます。恐怖に支配された心。これは、この作品の中の世界全体に言えることです。

「勇気」とは困難を克服する活力のことだ。勇気のない人が困難に出会うと、人生のダークサイドへと堕ちていってしまうだろう。

勇気を挫かれた人々。政府の陰謀により、言論を封じられ、過去の出来事を「忘れる」ことを強要された世界。主人公が行動を起こすまでの世界です。

「やる気がなくなった」のではない。「やる気をなくす」という決断を自分でしただけだ。「変われない」のではない。「変わらない」という決断を自分でしているだけだ。

大切なのは「共感」することだ。「共感」とは、相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じることである。

主人公は様々な行動で、人々の変化を促します。人々は主人公の行動を自分の目で見、自分の耳で聞き、自分の心で感じ始めます。そして、変わる勇気を持ち、変わる決断をします。共感はやがて、社会を動かすような大きなうねりへと変わっていきます。

アドラーはこんなことを言っています。

自ら変わりたいと思い努力をすれば、ライフスタイルを変えることは十分に可能だ。性格は死ぬ1~2日前まで変えられる。

ライフスタイルは、簡単に言うと性格だと考えてください。そう。決断は一瞬です。心から変わりたいと思うのであれば、必要なことは変わらない決心を止めるだけです。


映画の多くは、主人公や登場人物が「自分と向き合うこと」を描いています。様々な出来事を通して起きる感情や考え方の変化といった心の動きを描写し、観客はそれを疑似体験します。この作品は、映画のなかで映画を観ているような感覚の作品です。監督、脚本、主演は主人公のV。

復讐劇ですから、血なまぐさいシーンも多いです。そんな中、ほっとするシーンもあります。いずれのシーンも、アドラーのこんなことばに象徴されます。

苦しみから抜け出す方法はたった1つ。他の人を喜ばせることだ。「自分に何ができるか」を考え、それを実行すればよい。

主人公とヒロインの関係も、作品が進むにつれ変化していきます。愛と信頼が生まれる過程で、二人の行動は、「自分のためではなく相手のために」に変わっていきます。


自分と向き合い、他者と向き合うことで、心を解放していく過程を描いた作品です。残念ながら、映画は観ないと分かりません。映像の力は偉大です。ことばでいくら伝えようとしても伝わらないことを一瞬で伝えるのが映画の魅力です。観て感じてみてください。


最後はアドラーのこのことばで締めくくります。

人間は人生を描く画家である。あなたを作ったのはあなた。これからの人生を決めるのものあなた。